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    システム概要

    本衛星は,衛星の基本的な動作に必要なバス系とミッションを行うミッション系から構成されています.バス系は7つのサブシステムから,ミッション系は4つの機器から構成されています.システムダイヤグラムを以下に示します.なお,本衛星には姿勢制御系は搭載されていません.熱制御系はバッテリを加熱するヒータのみ搭載しています.


    バス系の概要は以下の通りです.

    サブシステム名 構成及び機能
    電源系 (Electrical Power Supply:EPS) 太陽電池,バッテリ,レギュレータ,制御用マイコン,充電制御IC,ヒーター,スイッチから構成される.
    発電及び充電を行い,安定化した電源を搭載機器全体に供給するとともに,バッテリの容量に応じて,消費電力を制御する.加えて,各種スイッチを切り替える.また,ヒータのON/OFF制御を行う.
    センサ系 (Sensor Group:SG) 温度センサ,電流計,地磁気センサ,ジャイロセンサ,A/Dコンバータ,制御用マイコンから構成される.
    衛星時間をカウントする.また,バッテリ電圧,太陽電池セルの発生電流,各機器の温度,衛星角速度,地磁気を測定し,他のサブシステムに,衛星時間と共に測定データを送信する.
    データ処理系 (Command & Data Handling : C&DH) モデム,FEPROM,制御用マイコン,バス通信機から構成される.
    SGからのセンシングデータ,CAMからの画像データ,TRPからの電界強度データを処理・保存する.また,これらのデータをFMパケットとして生成し,送信機に出力する.
    CW生成系 (Continuous Wava:CW) 制御用マイコン,バス通信機から構成される.
    他のサブシステムからHKデータを受け取り,CWビーコンに変換後,送信機に出力する.
    コマンド受信系 (Flight Management Receiver:FMR) モデム,スイッチ,制御用マイコン,バス通信機から構成される.
    地上局からのアップリンクを受け取り,各サブシステムにコマンドを送信する.
    構造系 (Structure:STR) 構体(ねじ等も含む),アンテナ,アンテナ展開機構,分離検知スイッチから構成される.
    搭載機器を保持し,打ち上げ荷重に耐えられるようにする.
    計装系 (Harness:HAR) ワイヤーハーネス等,内部機器をつなぐ.


    ミッション系の概要は以下の通りです.

    ミッション機器 機能
    π/4 shift QPSK送信機(QPSK) C&DHからのデータを受け取り,CCSDSプロトコルのパケットを生成し,π/4 shift QPSK変調で地上局にデータを送信する.
    FSK送信機(FSK) C&DHからのデータを受け取り,AX.25プロトコルのパケットを生成し,FSK変調で地上局にデータを送信する.
    リニアトランスポンダ(TRP) 地上局からアップリンクした音声データを,他の地上局にリアルタイムで中継する.また,電界強度の測定を行う.
    カメラシステム(N-CAM) 画像を撮影し,そのデータを保存するとともに,C&DH,QPSKに送信する.

    バス系

    EPS(Electrical Power System)

    EPSは太陽電池セルによる発電及び充電を行い,安定化した電源を搭載機器全体に供給するとともに,バッテリの容量に応じて,消費電力を制御します.加えて,各種スイッチの切り替えを行います.また,ヒータのON/OFF制御を行います.EPSのシステムダイアグラムは以下の通りです.

    EPSの主な機能は以下の通りです.

    1.バッテリ容量による消費電力の制御

    バッテリ容量に応じて,以下に示す電力モードに自動で切り替えます.バス電圧を監視し,あらかじめ定めていた閾値以下になった時に省電力モードになります.バッテリの温度が低い場合は閾値を通常よりも高い値にします.また,アップリンクにより閾値を変更することもできます.さらに,消費電力の高い運用を長時間する場合は,強制実行モードを使うことで省電力モードに入らないようにすることも可能です.

    通常モード ・電力的な問題が発生していないときのモード.
    省電力モード ・消費電力に比べ供給電力が少なく,電力が不足している時のモード.
    ・必要最低限の機器以外の電源をOFFにすることで,バッテリの充電を行う.
    ・省電力時CW運用モードのみ可能である.
    強制実行モード ・電力的な問題の有無に関わらず,地球局から衛星を制御したい時に用いるモード.
    ・全運用モードの動作が可能である.

    2.バッテリの充電制御

    運用を行う際,太陽電池からバッテリへの過剰な充電があると,バッテリが劣化してしまう恐れがあります.そのため充電制御ICにより過充電を防止しています.また,バッテリ電圧が低くなりすぎても劣化してしまうため,想定以上に電圧が低くならないよう省電力モードによりバッテリを保護します.

    3.バッテリ温度によるヒータの制御

    バッテリの温度が低いとバッテリの容量が少なくなってしまいます.また,0度以下のバッテリへの充電はバッテリの劣化につながってしまうため,バッテリの温度が0度以下になった場合は自動でヒータの電源を入れてバッテリ温度を能動的に上げる制御を行います.

    4.安定化した電源の供給

    バッテリ及び太陽電池セルから供給される電圧をレギュレータにより,5v及び3.5vに安定化し,各システムに供給しています.バス系とミッション系のカメラシステムには5V,ミッション通信機には3.5Vを供給しています.

    5.各システムの電源の制御

    コマンドに応じて,各システムの電源をON/OFFすることができます.

    6.打ち上げ時の3インヒビットスイッチ

    衛星がロケットから分離されるまでは,衛星の電波等でロケットや他の衛星に影響を与えないようにしなければいけません.そのため,輸送中は衛星の電源が入らないようにする必要があります.したがって,3つの分離検知スイッチを用いて,バッテリからシステムへの電源供給を遮断し打ち上げ時の誤動作がないように設計しています.

    SG(Sensor Group)

    本システムは衛星の電圧,電流,温度といった状態監視に必要なデータを取得するシステムです.
    本システムは,センシングしたデータをEPS(Electrical Power Supply),CW(Continuous Wave),CAM(CAMera),C&DH(Command & Data Handling)へ送信します.EPS,CW,CAMにデータを送信する際にはセンシングデータを物理量に変換してから送信することで,各システムでデータ演算の負荷を軽減しています.C&DHはデータを保存し,地上に送信するだけであり,センシングデータを用いて動作することはしないので,SGでデータの演算は行わず,AD変換されたbitデータを送信しています.

    システムダイアグラムは以下のようになっています.




    取得データ

    本システムが取得するデータは以下のようになっています.

    電圧 バス電圧
    電流バス電流,太陽電池パネルの電流6枚分
    温度 バッテリ温度2ヶ所,5Vレギュレータ1,5Vレギュレータ2,3.5Vレギュレータ,西無線機(受信),西無線機(送信),QPSK送信機,FSK送信機,リニアトランスポンダー,太陽電池パネル6面分.ジャイロセンサ3個分
    角速度衛星3軸分
    地磁気衛星3軸分



温度センサ



Gyroセンサ



磁気センサ


    C&DH(Command & Data Handling)

    C&DH系は,センサデータ等の取得・保存,及び地球局への保存データ送信,加えてミッション機器の動作管理を行うシステムです.
    NEXUSが取得するデータは大きく分けてセンシングデータ,画像データ,電界強度データの3つとなっており,それら全てがC&DH系に保存されます.また,保存データをFMパケット(AFSK1200bps/GMSK9600bps)にして地上局へ送信します.センシングデータに関してはリアルタイムに送信することも可能です.


    FMパケットの他に,アマチュア無線家の衛星通信技術鍛錬の機会を提供するため,SSTVデータ及び音声データを送信します.加えて,全てのミッション機器(QPSK送信機,FSK送信機,リニアトランスポンダ,カメラシステム)の動作管理を担っており,写真撮影をカメラシステムに指令するほか,C&DHに保存したデータをミッション通信機に引き渡して,RF放射を指令します.


    CW(Continuous Wave)

    本システムはモールス信号を送信するシステムです.送信する内容は,コールサイン,衛星名,衛星時間,バス電圧等のセンシングデータです.本システムは通常モード,省電力モード,カスタムモードを有しています.コマンドを受けていない状態や,衛星の電力に問題がない場合は通常モードとなります.衛星の電力状態に問題がある場合,衛星は省電力モードに移行します.そのため,衛星が省電力モードに移行した際には,CWシステムも自動で省電力モードに移行します.衛星の電力が復帰した場合にはCWシステムも自動で通常モードに復帰します.カスタムモードは,CWから出力するセンシングデータを自由にカスタマイズすることができるモードです.

    システムダイアグラムは以下のようになっています.




    コールサインJS1YAV
    衛星名NEXUS

    送信可能データ

    送信可能なデータは以下のようになっています.
    データ内容 データ型 データ量
    衛星時間 int型 4bytes
    スイッチ情報 int型 1bytes
    リセット情報 int型 5bytes
    バス電圧 long型 2bytes
    バッテリ電流 long型 2bytes
    バッテリ温度1 long型 2bytes
    バッテリ温度2 long型 2bytes
    5Vレギュレータ温度1 long型 2bytes
    5Vレギュレータ温度2 long型 2bytes
    3.5Vレギュレータ温度 long型 2bytes
    トランスポンダ用パワーアンプ long型 2bytes
    QPSK送信機温度 long型 2bytes
    FSK送信機温度 long型 2bytes
    Gyroデータ(x,y,zの順) long型 6bytes
    磁気データ(x,y,zの順) long型 6bytes
    合計 42bytes


    CW運用モード

    CWシステムのモードは以下の通りです.なお,詳細についてはテレメトリ―フォーマットを参照下さい.
    通常モード: ノミナルの動作モードです.送信間隔は約3秒です.
    省電力モード: 送信間隔が通常モードの10倍(約30秒)となっています.
    カスタムモード : センシングデータを任意のデータに変更できます.

    FMR(Flight Management Receiver)

    FMRはアップリンクを受信するシステムであり,本衛星の最上位システムです.地球局からのアップリンクを受信し,時間に応じてコマンドを各システムへ送信します.システムダイアグラムは以下の通りです.



    FMRの主な機能は以下のようになっています.

    1.地上局からのコマンドを受信し,時間に応じてコマンドを各サブシステムに送信

    地球局から送信されるアップリンク内容は,コールサイン,セキュリティバイト,強制実行有無,実行時間,コマンド,備考データから構成されています.本システムはアップリンクされたデータを基にセキュリティバイトを計算します.そして,地球局から送られてきたセキュリティバイトと比較し,値が一致したパケットのみコマンド用のROMに保存します.コマンド毎に実行時間があり,アップリンクを受け取った時間を基準に実行時間が経つとその時間に対応したコマンドが各システムへ送信されます.

    2.ロケット分離後のアンテナ展開機構の制御

    本衛星のアンテナ展開は,アンテナを固定しているダイニーマを切ることで行われます.ダイニーマはニクロム線に電流を流しその時に発生する熱で焼き切ることができます.なお,アンテナはテレメトリ送受信用アンテナ及び,ミッション通信機用送受信アンテナの計4本です.

    3.ラッチングリレーの制御

    運用終了後,衛星から電波が出ていると他の衛星に影響が出てしまうため,ラッチングリレーをOFFにすることで,太陽電池セルからバッテリへの供給ラインを切断し,衛星の動作を停止することができます.ラッチングリレーはアップリンクにより制御することができます.

    4.バス系のサブシステムのリセット

    アップリンクによって,各サブシステム(EPS,CW,SG,C&DH)をリセットできます.



    STR(STRucture)


    NEXUSは,複数の衛星と共に打上げられるため,構造系はロケットや他の衛星に影響を及ぼさないように,「打上げ時の環境条件」とロケット側との「インターフェース条件」が要求されます.ロケットからのインターフェース条件を元に寸法や剛性等の構造的要素に加え,エア抜きやアウトガスなど,材料・性質の一つ一つに注意を払いながら設計を行います.NEXUSでは,SEEDS-IIやSPROUTのノウハウを受け継ぎ,中心にバッテリボックスを搭載し,2枚のパネルと2個のトラスで主要構造が構成されています.

    図からも分かるようにNEXUSは,1辺10cmの立方体という大きさでありながら,通信機を4つ搭載しているため,衛星の内部は非常に密になっています.そのため,機器配置は重心等の質量特性や熱設計に深く関わってきます.質量の重いものをバッテリボックスの近傍に搭載することで,重心を慣性座標系の中心に近づけることを行っています.ここで熱設計に関して記述しておきます.
    通常衛星は,打上げ時から運用終了時までに至る熱環境に対し,搭載機器の温度を許容温度範囲に収めることができるよう設計しなければなりません.地球周回の衛星は地上と異なり,過酷な温度環境(100℃以上から-100℃以下)に晒されます.よって搭載機器および構造に対し熱的な配慮を施す必要があります.NEXUSでは,先に記したように,密に機器が搭載されているため,可能な機器配置が限られています.その中で,衛星の命とも言えるバッテリの温度を0℃以上に保つことは最重要です.そこで,本研究室で従来より採用されてきたバッテリを中心にして,その周辺を比較的発熱が大きい通信機で囲むように配置することで,衛星の電源機能を守る形を採用しています.しかし今回は,熱解析の結果,バッテリの温度が0℃近傍まで下がることが予測されたので,バッテリを挟み込む形でヒータを2枚搭載することとし,電源機能に対し熱的保護を行っています.





    ミッション系

    QPSK(π/4 shift QPSK Transmitter)

    π/4 shift QPSK送信機は,アマチュア衛星通信において従来主流であった通信速度(1200bps,9600bps)に対して高速な38400bpsのパケット通信が可能です.通信速度が速くなると,一般に,通信データの欠如が問題となりますが,これを解消するために誤り訂正符号を付加したCCSDSプロトコルを採用しています.π/4 Shift QPSK変調はアマチュア衛星通信で広く使われているTNCではデコードができないため,近年盛んに利用されているソフトウェア無線(SDR)を用いたデコードソフトを開発し,配布します(近日中にHPにアップし,お知らせします).


    以下に,QPSKの基本諸元を示します.

    寸法 79.5×39.5×10.0 mm
    重さ 74.1 g
    動作電圧 3.38〜3.5 V
    消費電流(送信時) 750 mA
    伝送速度 38.4 kbps
    変調方式 π/4shift QPSK
    送信周波数 435.900 MHz
    送信電力 0.3 W
    通信プロトコル CCSDS
    占有帯域幅 30 kHz以下
    動作温度範囲 -20〜60℃

    FSK(FSK Transmitter)

    FSK送信機は,NEXUSに搭載されているミッション通信機の1つです.最大の特徴は,通信速度が可変であることです.伝送速度が,1200〜19200bpsの間で,可変です.通信環境が悪いところでは通信速度を落として確実にダウンリンクし,通信環境が良いところでは通信速度を上げてたくさんのデータをダウンリンク出来ます.以下に,FSK送信機の概観を示します.



    FSK送信機は,従来の衛星通信において主流であった通信方式より,効率の良いFMパケット通信が可能です.以下に,諸元を示します.

    寸法 53.8×36.0×5.0 mm
    重さ 36 g
    動作電圧 3.5 V
    消費電流(送信時) 750 mA
    伝送速度 1.2〜19.2 kbps
    変調方式 FSK
    送信周波数 435.900 MHz
    送信電力 0.4 W
    通信プロトコル AX.25
    占有帯域幅 30 kHz以下
    動作温度範囲 -10〜50℃


    TRP(Linear Transponder)

    リニアトランスポンダは,145MHz帯でアップリンクされた音声を435MHz帯に変換しダウンリンクする通信機です.さらに,145MHz帯の電界強度を測定する機能を有しています.この機能により,衛星周辺の145MHz帯のノイズ状況を調査することができます.以下に,リニアトランスポンダの外観を示します.



    リニアトランスポンダの基本諸元は以下の通りです.

    寸法 80×80×10 mm
    重さ 150 g
    動作電圧 3.5 V
    消費電流(送信時) 750 mA
    伝送速度 -
    変調方式 CW,SSB
    送信周波数 UP : 145.900〜145.930 MHz
    DOWN : 435.880〜435.910 MHz
    送信電力 0.5 W
    通信プロトコル -
    占有帯域幅 30 kHz以下
    動作温度範囲 -10〜50℃


    N-CAM

    カメラシステム(以下,N-CAM)は,小型人工衛星に搭載されることを前提としたものであり,サイズ・重さは小さく抑えつつ,解像度や画像形式・画像効果について様々な値を設定することが可能です.



    N-CAMのシステム構成,基本諸元は以下の通りです.

    Parameters Min. Typ. Max. Units
    Image sensor OV5642 -
    Active array size 320×240 640×480 2592 × 1944 pixels
    Pixel size 1.4 × 1.4 μm
    Focal length 3 mm
    F ? number F/2.5 -
    Angle of view D 75,H 63,V 49 deg.
    Data formats JPEG BMP -
    Frame rate 15 fps
    Limit for continuous shooting 300 frame
    Power supply voltage 4.8 5 5.2 V
    Power consumption 600 mA
    System Control SPI,USART
    General-purpose port SPI,USART,GPIO
    Clock frequency(MPU) 72 MHz
    Memory
    FIFO(RAM)
    FEPROM
     
    16 MB
    32 MB
    Mechanical size
    Micro-controller board
    Camera module
    70 × 30 × 10 mm
    30 × 30 × 23 mm
     
    Temperature
    Operable range
    Stable operating range
     
    -30 70
    0 50

    N-CAMには4つの撮影モードが搭載されており,用途に応じて様々なモードによる撮影が可能です.

    No. 機能名称 機能概要
    1 shoot 静止画の撮影を行う. 画像形式や,解像度の設定が可能.
    2 Movie shoot 動画の撮影を行う. 画像形式や,解像度の設定が可能であるほか,別コマンドにより,フレームレートを変更することが可能(3.75~15fps)
    3 Continuous shoot こま撮りの撮影を行う. 解像度や撮影枚数の設定が可能であるほか,こま撮り間隔の調整が可能(0.5~30s)
    4 Auto shoot SGが取得した衛星の角速度データを基に,自動でこま撮り間隔を調整し,衛星が1回転する間に,均等にこま撮りを行う. 解像度や撮影枚数の調整が可能.